2025年11月15日(土)鑑賞 TV放送(東海テレビ)
2013年2月16日(土)公開 / 上映時間:120分 / 製作:2012年(日本) / 配給:東海テレビ
(2012年6月30日(土)放送)
【監督】 齊藤潤一
【キャスト】
 奥西勝:仲代達矢 / 奥西タツノ:樹木希林 / 川村富左吉:天野鎮雄 / 若き日の奥西勝:山本太郎
 (ナレーター:寺島しのぶ)
【あらすじ】
昭和36年、三重県名張市の葛尾村で、ぶどう酒を飲んだ女性15人が倒れ、そのうち5人が死亡する事件が発生。村で農業を営む奥西勝(仲代達矢)も妻が犠牲になるが、警察は「妻と三角関係にあった女性をまとめて毒殺する計画だった」として奥西を逮捕する。奥西は一度は犯行を自白するものの「警察に自白を強要された」と主張して一審で無罪判決。しかし、二審で死刑判決となり、昭和47年に最高裁で死刑が確定。戦後唯一の無罪からの逆転死刑判決となる。いつ訪れるか分らない刑執行におびえ、事件から50年以上にわたり再審請求を繰り返している奥西の孤独や恐怖を描き出していく・・・
【感想】
1961年(昭和36年)に三重県名張市で起こった「名張毒ぶどう酒事件」の犯人として投獄され、無実を訴え続けている奥西勝死刑囚の半生を描いたドキュメンタリードラマです。当時の取材映像も多く使われています。東海テレビ制作で2012年にテレビ放送され、2013年に再編集されたものが映画として公開されています。今回、仲代達矢追悼番組として放映されたものを観ました。

地元三重県で起きたこの事件ですが、私がまだ3歳だったので当然リアルタイムでの記憶はありません。ただ、何度も冤罪事件としていろんな角度から報道されていましたので事件の詳細はわかっているつもりでした。しかし、この映画を観て、警察や検察、裁判所の恐ろしさをあらためて感じてしまいました。一度有罪とした判決の壁はいかに高くて無慈悲なものかということが絶望的な思いでのしかかってきました。

奥西氏の自白前の状況は決め手に欠けていたにもかかわらず、自白をしてからは関係者の証言が奥西氏不利に変化し、物的証拠もなく死刑に追い込まれて行きます。また自白を翻してからは集落ぐるみで家族への差別や迫害が始まったということです。一度自白をしているために、世間の目は冷たく、有罪という見方しかなかったようです。自白は強要されたのか、家族を守るためなのか、諦めからだったのか、それとも真実なのか、それはわかりませんが、物的証拠がすべて曖昧で証言と食い違っているものもあるにもかかわらず、自白のみで再審を認めず死刑囚として扱う国家権力の怖い構図が見えてきます。無罪や再審決定の判決を出した裁判官が職を辞したり不遇な扱いとなったり、死刑や再審を認めなかった裁判官が出世している傾向というのも、証拠を判断する物差しの公正さに疑問を感じてしまいます。奥西氏が本当に無罪であったならば、子どもとも暮らすことができず、一生のほとんどを拘置所で暮らさざるを得ない理不尽さと絶望に気が狂ってしまいそうだったのではないかと想像します。そんな奥西氏を、死刑執行に怯えながら暮らし、再審に希望を持つ心情が仲代達矢からとてもよく伝わってきました。また、奥西氏の母親を演じた樹木希林も、息子の無実を信じて健気に祈る姿は心打つものがありました。伊勢弁も上手でした。

事件の真相は今となっては闇ですが、奥西氏の残したものや客観的な証拠からは、死刑という結果にするには大きな疑問が残ることは事実のようです。権力を持っている人たちは、メンツにこだわらずに冷静に客観的に人権意識を持って正しい判断をしてくれることを望みたいと思います。地元地方局の東海テレビの長年の取材の執念と、仲代達矢、樹木希林といった実力俳優によって、とても貴重で重厚な作品だったと思います。

なお、この映画公開時は、奥西氏は病床で寝たきりでしたが、2015年10月に89歳で死刑囚として人生を閉じました。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。